サケ・マス通信ブログ - 第1回サケ・マス定置網セミナー 母川回帰のメカニズムと新知見<中篇>
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第1回サケ・マス定置網セミナー 母川回帰のメカニズムと新知見<中篇>2010/05/10 11:30 am
サケ・マス類母川回帰の
メカニズムと新知見について<中編>
ヒメマス、サクラは視覚嗅覚を使い回帰
種によって異なる「感覚能力」
北海道大学 教授 上田 宏 氏
セミナー記事のもくじのページへ
<前編からの続き>
この外海での実験は非常に予算がかかるため、実験場のある洞爺湖でヒメマスをモデルに発信機などを装着する手法で同様の実験を行っている。
回帰行動には磁気感覚が関係しているという論文があることから、非常に強力な磁石を付けて別の場所から放流してみると、ほぼ直線的に戻ることが分かった。ところが、視覚を奪ってしまうとジグザグな動きとなり、ヒメマスに関しては視覚が回帰に非常に重要だということが判明した。ヒメマスよりも遺伝的に下等なサクラの場合は直線的に戻るのではなく、沿岸を回遊して回帰することが分かった。
さらに嗅覚を奪ってしまうと湖岸に定位できなくなることも分かっており、これらサクラなどは視覚・嗅覚を用いて母川回帰することが分かっている。
分布域が狭く沿岸を回遊することで母川にたどりつくことができるサクラに対して分布域の広いベニなどは、ある程度方向を決めて帰ってくるものと考えられる。種によってこうした感覚能力に違いがあるということ。
サケの好む流速流量が
河川の蛇行復元に重要
今年度までの事業で、河川の蛇行を復元した場合にそ上するサケの行動がどう変化するかという実験を標津川で道栽培漁業振興公社と共同で行っている。
国土交通省が2002年に直線化した河道を旧川の三日月湖に通水する蛇行復元工事に際して追跡調査する機会を得たもの。サケに発信機を付けて筋肉の動きを観察することで、「どれ位一生懸命泳いでいるのか」ということを調べた。
まず、サケが河川の直線部を選択するのか、蛇行部を選択するのかを調べたところ、2004年、2005年の調査では個体すべてが蛇行部に進んだが、2006年になると直線部に進む個体が増加した。なぜこうした結果になったのかを調べると、04、05年は流量と流速が蛇行部のほうが大きく、06年以降の調査ではそれが逆転していた。つまり、サケは流量・流速の大きいほうを選択していたことになる。ただ単に河川に蛇行を復元させてもダメということで、こうした復元工事に際しては、サケがどのような流量・流速などの環境を好むのかを調査することが重要なポイントとなる。
また、蛇行を復元したことによるメリットも確認された。流れが複雑になったことで蛇行部で定位する、つまり休む時間が増えた。これは産卵するエネルギーを蓄積することにもつながるため、良質な卵を採卵することができるということになる。
GnRHホルモンが
回帰時に大きな役割
現在、最も注目しているがホルモンの働き。脳から出されるホルモンがどのようにサケの生殖腺の成熟をコントロールしているのかという点。
サケのGnRHというアミノ酸配列のホルモンが重要と考えている。サケの脳は、考える力はほとんどないが、感覚能力やホルモンの分泌に関しては非常に優れている。ベーリングから千歳川に帰ってくる日本系シロザケをサンプリングしたところ、このGnRHというホルモンが石狩川から千歳川に入るころに、血中のテストステロンという物質と同調して増加することが判明。このホルモンがサケのそ上にとって重要な役割を持っていることが判明した。
支笏湖でヒメマスをモデルとして行ったホルモン投与母川回帰実験でも、特にこのGnRHというホルモンが回帰に重要な役割を担っているという結果を得ている。
また、NMDA受容体という記憶などに関係している物質がこのホルモンの作用に大きな役割を持っていることも分かっている。これを阻害するものを投与すると回帰が遅れるというデータを得ていた。
こうしたホルモンや物質をコントロールすることができるようになれば、同時期の卵を計画採取することにもつながっていくものと考えている。
(2010.03/12配信号に掲載)
後編に続く
メカニズムと新知見について<中編>
ヒメマス、サクラは視覚嗅覚を使い回帰
種によって異なる「感覚能力」
北海道大学 教授 上田 宏 氏
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<前編からの続き>
この外海での実験は非常に予算がかかるため、実験場のある洞爺湖でヒメマスをモデルに発信機などを装着する手法で同様の実験を行っている。
回帰行動には磁気感覚が関係しているという論文があることから、非常に強力な磁石を付けて別の場所から放流してみると、ほぼ直線的に戻ることが分かった。ところが、視覚を奪ってしまうとジグザグな動きとなり、ヒメマスに関しては視覚が回帰に非常に重要だということが判明した。ヒメマスよりも遺伝的に下等なサクラの場合は直線的に戻るのではなく、沿岸を回遊して回帰することが分かった。
さらに嗅覚を奪ってしまうと湖岸に定位できなくなることも分かっており、これらサクラなどは視覚・嗅覚を用いて母川回帰することが分かっている。
分布域が狭く沿岸を回遊することで母川にたどりつくことができるサクラに対して分布域の広いベニなどは、ある程度方向を決めて帰ってくるものと考えられる。種によってこうした感覚能力に違いがあるということ。
サケの好む流速流量が
河川の蛇行復元に重要
今年度までの事業で、河川の蛇行を復元した場合にそ上するサケの行動がどう変化するかという実験を標津川で道栽培漁業振興公社と共同で行っている。
国土交通省が2002年に直線化した河道を旧川の三日月湖に通水する蛇行復元工事に際して追跡調査する機会を得たもの。サケに発信機を付けて筋肉の動きを観察することで、「どれ位一生懸命泳いでいるのか」ということを調べた。
まず、サケが河川の直線部を選択するのか、蛇行部を選択するのかを調べたところ、2004年、2005年の調査では個体すべてが蛇行部に進んだが、2006年になると直線部に進む個体が増加した。なぜこうした結果になったのかを調べると、04、05年は流量と流速が蛇行部のほうが大きく、06年以降の調査ではそれが逆転していた。つまり、サケは流量・流速の大きいほうを選択していたことになる。ただ単に河川に蛇行を復元させてもダメということで、こうした復元工事に際しては、サケがどのような流量・流速などの環境を好むのかを調査することが重要なポイントとなる。
また、蛇行を復元したことによるメリットも確認された。流れが複雑になったことで蛇行部で定位する、つまり休む時間が増えた。これは産卵するエネルギーを蓄積することにもつながるため、良質な卵を採卵することができるということになる。
GnRHホルモンが
回帰時に大きな役割
現在、最も注目しているがホルモンの働き。脳から出されるホルモンがどのようにサケの生殖腺の成熟をコントロールしているのかという点。
サケのGnRHというアミノ酸配列のホルモンが重要と考えている。サケの脳は、考える力はほとんどないが、感覚能力やホルモンの分泌に関しては非常に優れている。ベーリングから千歳川に帰ってくる日本系シロザケをサンプリングしたところ、このGnRHというホルモンが石狩川から千歳川に入るころに、血中のテストステロンという物質と同調して増加することが判明。このホルモンがサケのそ上にとって重要な役割を持っていることが判明した。
支笏湖でヒメマスをモデルとして行ったホルモン投与母川回帰実験でも、特にこのGnRHというホルモンが回帰に重要な役割を担っているという結果を得ている。
また、NMDA受容体という記憶などに関係している物質がこのホルモンの作用に大きな役割を持っていることも分かっている。これを阻害するものを投与すると回帰が遅れるというデータを得ていた。
こうしたホルモンや物質をコントロールすることができるようになれば、同時期の卵を計画採取することにもつながっていくものと考えている。
(2010.03/12配信号に掲載)
後編に続く